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「それでは、ただいま説明した決算内容について承認の方は、拍手をお願いします」
形式的なこの行事(作業)は、僕は好きじゃない。だからサラッと飛ばそうとしたのだけれど、つぎの幹事長がやんわりとリマインドしてくれた。しっかりしてるね。
安心して引退できるな。そう僕は思った。
毎年何でやるんだろう、って思いながらやる形式的な行事は排除されるべきだと、当時の僕は思っていた。実際そうだという場面が多いと思う。でもそれ以上に、あの拍手は代替わりを象徴する音として僕の中に刻まれている。
1年生の時はなんとも思わなかった。ただ形式的に、場の流れに沿って拍手をするだけだった。
2年生の時は、あと1年か、と思った。一年間が早くなっているのを感じた。
そして、今。
ようやく引退か、と思う。引退してしまうんだなあ、とも思う。
会計報告として、何を話そうかはしっかり台本があった。毎年つまらなくなりがちなこれを、なるべく面白く、1人でもこんな会計いたな、となんとなく覚えていてくれたらなと、そう思って作った。
会計として話したいことは話切ったし、手応えも上々だった。
これも一種の創作なのかも。パワポを作って発表する、その形式的な行事に、内容に、想いを込めて伝える。多分世の中の人のほとんどは意識してないだろうけど。
誰にでもできないことだけが創作じゃない。僕はそう思ってる。
この対偶はよく言われていると思う。
この後は、各研究会の会長が一言ずつ喋って、プレゼントを受け取る。これも形式的。
52代って減ったなあ、そんな月並みな感想を持ちながら、人が話していくのをぼんやりと眺めていた。
各研究会の会長が話し終わった後には、三役の引き継ぎがある。
三役の先陣を切るのは、会計。まあ、そうだよね。
僕は先陣を切るのはなんとなく得意だと思ってる。幾度となくそういう機会があったし、そのたびにそれなりにこなしてきた。
でも話したいことはさっき込めちゃったんだよなあ。今の僕には何も残っていない。
でも何か喋らないといけない、なんだろう?
「それでは次に三役、会計の引き継ぎを行います。べるさん、前に出てきてください。」
うわー、なんか聞こえた。たぶん「べるさん」ってのは僕のことなんだろう。
わー、たくさんの人が僕の話を聞く体勢を作っているように見える、もう多分こんなことないだろうな。
緊張する、久しぶりにそう思った。
企画発表会の時も、会計のお知らせの時も、台本があった。台本自体は自分で作ったけど、本質的に僕は人前で喋る時に演じる以上のことができない。
だから演じる内容のない、こういう時が一番困るんだな。
「52代のべるです。」
いつも最初に喋るこのセリフで、僕は心を落ち着ける。
そう思って、何を話すかを考えながら喋ることにした。
あれ?前にもこんなことがあったような。まあパラレルワールドの出来事かな。
- 創作にお金をかけるべき?
- やってきた企画の話?
- やってみたかった企画?
- その他会計で困った裏話?
- サークル運営としてやってきたこと?
- 先輩として?
いろんなことが浮かんだけれど、どれを話そうかは掴めなかった。
どれも重要な気もするし、どれも今話さなくてもいい気もする。全部話してると時間がないけれど、一つしか話さないともったいない気もする。三役だから少しちゃんと喋っても大丈夫なはずだけど、「ちゃんと」喋ることができるほどの料理を僕は持っていなかった。手近にあった具材を集めることはできたけど。
こういう時に何をアドリブで話せるかが、自分を一番表すんだよな、たぶん。
自分が現れてしまう、とも言えるね。
まあとりあえず、この話をするか。
「この一年、会計補佐の時代から含めると2年くらいですかね、たくさんの人を入会させてきました。いろんな人が作る、いろんな創作物を見せてもらいました。素直に楽しかったです。」
General から Specificに。これは英語の授業で学んだこと。
「僕は三役の1人として、お金や情報の管理という側面からサークル運営に携わってきました。この一年はどうでしたか?
少しでも楽しかったなーと言う思い出があったなら、僕は嬉しいです。合宿でも、発表会でも、アフターでも。なんでもいいんですけどね。」
軽い問いかけを入れながら。
何人かの人は頷きながら聞いてくれてるね。熱心だな。
「そうやって過ごしていた中で一つ、気になったことがあります。多分『今』気になってるので、ここで言っておきたいと思います。」
別に気になったことは一つじゃないけど、今話したいのは一つ。
流れを少しだけ変えて注目を集めていく。そんな感じ。
「みなさんは、自分が所属している研究会の発表会はよく参加してくれます。それは当然の動きだと思います。絵描きだったら他の人が描いた絵が気になるし、プログラマーだったらすごいデモを見せられたらソースコードまで読みたいと思うはずですから。」
僕が言いたいのは、ここから。
「......他の研究会の発表会に参加してますか?」
これ。
「多分、あまりしてないんじゃないかな、と思います。ここでの参加ってのは単純に見る側の意です。
次の発表会に向けて自分が作りたいものを作りたいから。
単純に忙しいから。
見ても(聞いても)よくわからないから。
理由はたくさんあると思います。
でも僕は、ぜひいろんなものをその目で見て、耳で聞いて欲しいな、と思います。」
「確かに、それを見てもわからないこともあると思います。でも、わからないから見てはいけないと言うわけでもないはずです。わからないから全く楽しめないと言うこともないと思います。
元ネタがわかるとよりおいしい、みたいなのはあるかもしれませんけど。
別に全部に出て欲しいわけではなく、週に1.5時間くらいは他の人の創作物を見るのに当ててもいいんじゃないかなと思います。帰ってまた頑張ればいいわけですし。
もちろん、どうしても作りたいものがある日は帰ってもいいとは思います、ただ、全く他の発表会見にこないのは悲しいなと思います。」
運営として。
「僕は、発表会は見に来るだけで参加だと思ってます。コメントや感想を言ってあげると尚良いですね。コメントはクリエイターのエネルギー、原動力になり得るので。
あと一度でもモノを作ったことがあれば、コメントに優しさが出ると思います。それもクリエイターが発表会に参加する意義です。
技術的にいい、すごいところ、または自分が好きだと思ったところをすすんで褒める風習。これは僕がこのサークルで学んだ良い雰囲気の一つです。」
だいぶ熱がこもってきた、でも僕の言いたいことはこのくらいだ。
後はゆるく締めて、次の代に譲ろう。
てきとうに話し終わった後、次の会計からプレゼントが。
僕がドラクエを好きなことは周知の事実なので、それ関連のが来るかなーと思っていた。やっぱりきた。
スライムの貯金箱。かわいくていいね。
こいつにお金を貯めていけば、倒した時にゴールドが手に入るわけか。よくできてるね。
最近は現金も使わなくなったし、たまに溜まった小銭とかを少しずつ貯めていこうかな。楽しみ。
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なんとなく言いたいことが言えて満足していた。
次の2人の話を聞きながら、ぼーっと考え事をしていた。
52代ってなんだったんだろうな。
もし、たとえば2年後とかにアドカレを立てたら、たぶん1人一回じゃ半分も埋まらない気がする。それくらい少ない。
でも、その分一人一人の個性はすごい、よく出てると思う。
企画する側の人は少なかったけれど、だからこそ僕は企画する側になれた。僕は人がいない方の役割を演じるのが好きなんだ。静かだから。
コミュニケーションが不得手な人は僕を含めて多かった気がするけど、それでもサークルを運営することはなんとかできた。
願わくば、緩やかに繋がりつつ、また創作物を見せ合う機会があったらいいね。
今の僕はあまり創作をしたいとは思っていない。研究と就活が忙しいしバイトもあるからね。たぶん、2年くらい経って研究室や諸々の負の呪縛から解き放たれて落ち着いた頃になれば、また曲でも作りたいなって思い出すんじゃないかな。
その頃にはまた、一緒に作る人や、見せられる人がいるといいな。
たまたまだったかもしれないけど、同期だった人たちと。
52代はさいっきょーなので!
#みす夏合宿2019 52代はさいっきょーなので! pic.twitter.com/KD4WkCrVdX
— べる (@dora_marutation) 2019年9月14日